DubDub’s blog

気分が安定しないので、ブログの内容もまとまりません。

ろくでもないと、「わかっていても」

ブログ更新が滞ってしまった。

先週、友人が2人遊びに来てくれたことを一生懸命文字に起こしていた。

だが、人から頂いた幸せはブログにしても味が出ない。

友人が私を笑顔にしてくれた話は、ブログにしなくても、私の中で十分素敵な思い出なのだ。

書いた文字を一文字一文字消しながら、自分の心にしまっておく。

 

 

私は今、入院中だ。

おかげさまで、かなり元気になっている。

だからこそ、有り余る時間を持て余している。

 

暇な私を見かねて、沢山の友達が日替わりで電話をかけてきてくれる。

こんな私のことを思ってくれる友達がいることに、毎日感謝が絶えない。

 

それでも、簡単に時間は埋まらない。

毎日散歩に出かけてみたり、趣味のクロスステッチをしてみたり、柄にもなく本を読んでみたり、限られた外出可能時間をぬってカラオケに出向いたり…なるべくお金を使わず、時間を有効に使おうと頑張っている。

 

それでも、どーしても、ずっと一人なもんだから、誰かと話したくなる。

看護師さんに話しかけ、めんどくさい人だとは思われたくない。

友達に必要以上にダル絡みをして、嫌われたくもない。

そんな私が考えついたのは、一生会わないであろう人にダル絡みをするという遊びだ。

一生会うことのない人間なら、別になんと思われても関係ない。

 

「一生会うことのない人間」

それは、ネットの中にうじゃうじゃいる。

しかし、ネットの中で特定されて追いかけまわされるのも面倒だ。

そこで、私の頭をよぎったのは、電話アプリだ。

現代には、見知らぬ初めましての誰かと電話ができるアプリという物がある。

電話番号でかけるのではなく、アプリのアカウントで繋がるため、身バレする心配はない。

 

電話アプリをアプリストアで調べてみる。

一番最初に出てきたのは、「斎藤さん」。

私たちが学生だった頃に一世を風靡したアプリだ。

しかし、今やそのアプリには卑猥な輩しか残っていない。

こんなことは、有名な話だ。

卑猥なやつらの相手になるのは願い下げだ。

 

二つ目に出てきたのは「Connecting」というアプリ。

口コミを見てみると、どうやらかなり治安はいいようだ。

アプリ説明にも、「出会い目的、下ネタ禁止」とデカデカ書いてある。

どれだけこのルールを守ってるやつがいるのか疑心暗鬼になりながらも、とりあえずダウンロードしてみる。

 

一度使ってみる。

電話をし終わると、自分が設定したアイコンの画像が表示されるらしい。

アイコンは人が写ってなきゃ承認されないらしい。

「ん?人の顔が写ってなきゃいけない時点で、出会う前提じゃね?」とこのアプリの矛盾点を見つけてしまう。

とりあえず、Instagramを開き、そこそこの規模のインスタグラマーの自撮り写真を持ってきて、自分のアイコンに貼り付ける。

アカウント名は、韓国語で「두부」(意味:豆腐)と書き、これでもかと自分とアカウントの情報を遠ざける。

これで身バレ対策はばっちりだ。

 

ドキドキしながら、見知らぬ誰かとつながってみる。

出てきたのは日本人の男だ。

「あにょはせよ」と言われる。

「あ、、、アカウント名韓国語にしたから、韓国人だと思われた…」と、そこまで頭が回っていなかったことを後悔。

変に緊張した私は、かなり高い声で「あにょはせよ」と返す。

電話の向こう側から「韓国人の方ですか?」と聞かれる。

「いっそのこと、身バレ対策で韓国人になった方がいいのではないか?」という考えが頭によぎる。

カタコトで「そうでしゅ」と答えてみる。

「日本語お上手ですね」と言われる。

人生で初めて日本語が上手だと褒められた。

推しの愛くるしい日本語をモデルにしながら、「日本語、、、勉強してます」と言う。

 

このアプリは、ひとりの人と5分間話すことができる。

変な考えから、無理に韓国人を装ってしまったがために、残りの4分が地獄のように思える。

いきなりすらすらな日本語をしゃべり始めても怪しまれるだろう。

かといって、日本人に韓国語をぶちかましても会話にはならないだろう。

八方ふさがりだ。

残るは、アーニャみたいな日本語をしゃべるのみなのだ。

 

幸いにも、男性の方が頑張ってよく話してくれる。

私が適当に聞いた「日本に行く予定があるのですが、どこがおすすめですか?」という無難な話題に、誠心誠意答えてくれている。

なんか申し訳ない気持ちになってきた。

彼の口から出てくるおすすめの場所は、どこも一度行ったことがある場所だ。

なんせ私は日本で生まれ、日本で育った日本国籍の生粋の日本人なのだ。

それでも、彼がおすすめしてくれる場所を、繰り返し発音し、メモするふりをしながら時間を進めていく。

最後に「カムサハムニダ」と言い、電話が終わる。

 

相手の顔写真がスマホに大きく表示される。

今、しゃべってくれた健気な彼は、ヤンキーみたいな見た目をしている。

私の人生で一度もしゃべったことのない部類の人間だった。

多分これからもないだろう。

正直、電話が終了し、彼の写真を見て思ったことは、「こっわ」だ。

まぎれもない恐怖だった。

しかし、よく考えてみれば、電話で喋った彼は優しかった。

それは、私が韓国人だったからなのか?

日本語で喋っていたらどうなっていたんだろうと思った。

「人を見た目で判断してはいけない」とはよく言うけれど、人間にとって「見た目」という情報がどれほど大きいものなのかを実感した。

 

その後、彼からチャット申請が来た。

そこには、「너와 더 이야기하고 싶다」(訳:あなたともっと話がしたい)と書かれていた。

いかにもグーグル翻訳で訳したであろう韓国語だ。

 

高校生の時、毎週毎週英作文を書くのが面倒で、時々グーグル翻訳に丸投げしていた私。

添削してくれる外国人の先生が「翻訳機を使って書いたのは、わかるからね」と怒っていた。

それでも、「うまくグーグル翻訳使えばバレないだろう」「私も英語の知識0なわけじゃないし」「ちょっと変だなってところは自分で修正入れてるし…」と高を括っていた自分を、数年越しに嫌いになった。

 

そんな彼からのメッセージに、「この先も韓国人を演じ続けるのは無理だ」と思う。

かと言って、今更正直になるわけにもいかない。

「逃げる」しか考えつかなかった。

アプリの設定の一番下のログアウトボタンを押し、アプリをそっと閉じた。

 

見知らぬ人と話すのも一苦労だと思う。

いくら知らない人が相手でも、嘘をつくのは申し訳なく感じる。

日本人と話していると、なんだかんだで親近感を感じてしまうから余計にだ。

 

そんなこんなでいつも通りユーチューブを見ていると、広告に韓国の電話アプリが出てきた。

電話アプリはもうこりごりなはずだが、「韓国」という2文字が気になった。

一旦、広告からアプリストアに飛んでみる。

「Maum」というアプリだ。

「Maum」という単語は、韓国語で「こころ」という意味だ。

素敵な名前だなと思いながら、口コミ欄を見てみる。

「言語交換で使っている人が多いです」と書かれてある。

「確かにだ。ただ暇電するのではなく、言語学習を目的とすれば、より生産性のある時間になるのではないか」と思う。

自分の韓国語力を試す意味でも、一度使ってみようと思う。

 

使ってみると、前のアプリみたいに自分の写真を求められることもない。

何なら、アカウント名も勝手にアプリが決めてくれるので、悩む必要もない。

ただ、任意で話題になるような情報を書き込む欄があるくらいだ。

職業、趣味、MBTIをそれなりに書き込んでみる。

趣味は歌を歌うことにしておいた。

「MBTIの話題になったら、あんまり詳しくないから若干困るな…」と思いながらも、一応ESFJと書いておく。

同じESFJの仲間を見つけられた試しがないので、ワンチャン見つかるのではないかという思いで書き込む。

※MBTI:個人がどう世界を認識し、物事への決定を下すかについて16種類のタイプで分類したもの。血液型占い最強バージョンみたいなやつ。

 

世界の誰かとつながってみる。

だいたい韓国人とつながる。

みんな日本語がうまい。

そして、だいたいが日本旅行に行く予定がある。

しかも、「福岡→大阪→東京」と3都市巡る人が多い。

おすすめの寿司のネタを聞かれる。

かっこつけて「えんがわ」という言葉を教え込む。

私の韓国語も褒めてくれる。

気分がいい。

 

女の子とつながったときは、大体お互いにかわいいと褒め合う。

声しか聞こえていないのに、何がかわいいんだかよくわからないが、「かわいい」には「かわいい」で返すのが礼儀だ。

私が日本語をちょっと喋れば、みんなして感激しながら「かわいい」と叫ぶ。

日本語ってかわいいのか?

まぁ、でも悪い気持ちにはならない。

 

趣味が歌というのを見て、一緒にイントロクイズをした子もいる。

私はKPOPで出題し、相手は私にJPOPを出題するという謎ルールを決めた。

意外と相手がマイナーなJPOPを出題してきたりするので面白い。

 

同じESFJの子には未だ出会えていないが、「珍しいね!!」と言われることは多い。

MBTI本気勢の韓国人にそう言われるのなら、珍しいのだろう。

MBTIの話題が上がる度に、「アルファベット4文字で人の性格を知ろうとする人間の発想って面白いな」と思う。

相手のMBTIを聞いても、それがなんなのか私にはわからない。

MBTIを熟知している人と出会うたびに、その熱量に圧倒される。

 

時々、インドネシアアメリカの人とつながることもある。

お互い、つたない韓国語で会話する。

英語しか喋れないアメリカ人やらイギリス人とつながったときは、ノリでごまかす。

ちゃんとした英語が喋れたのなら、もっと面白い話ができるのだろう。

 

一回、ウクライナ人と巡り会ったときは、若干話題に困った。

ウクライナの支援Tシャツ、頑張って買ってます。」なんて口が滑っても言えなかった。

安易に応援してますなんて言えない。

結局、戦争の話題には触れないまま(触れられないまま)、KPOPのアレコレを話して終わった。

それでほんとによかったのだろうか?

 

いろんな国の人と簡単にしゃべれるこの時代。

世界は思った以上に丸いようだ。

「好き」がつながれば、言語の壁なんて簡単に超えられる。

そして、なにより、若者の日韓関係は明るい。

 

このアプリは、一回の電話で8分会話できる。

電話が終わった後にチャットがやってくることもない。

お互いがお互いの国のことを知ろうとしてる、世界平和な人しかいない。

私は、時々このアプリで世界の人と会話するようになった。

 

 

しかし、このアプリにも、稀にカトクを交換しようと言ってくる人はいる。

私も、ヲタ活用にカトクがあることにはある。

カトクはラインと違って、何個もプロフィールを作ることができ、相手に見せるプロフィールをカスタムできる。

簡単に言えば、身分を偽造しやすいということだ。

私にとってカトクは、ラインのように、自分のアカウントが消えたら困るわけでもない。

やばいやつとカトクを交換してしまったとしても、アカウントは捨てられる。

私の中で、カトクなら交換OKという自分ルールを決めた。

※カトク:ラインみたいなメッセージアプリ。カカオトークの略。

 

「このアプリにいる稀にカトクを交換したいと言ってくる人」それはだいたい、「軍隊にいる子」という法則に私は気づいた。

私が入院して暇なように、向こうも入隊して暇なことはないだろうが、「寂しい」のだろう。

海軍にいる子は、訓練が結構多い。きついらしい。

島から出れないのが、きつすぎると言っていた。

一般の部隊にいる子は、訓練より仕事が多い。

彼の軍でのお仕事とは、カラオケ機のDAMを作ることらしい。

私がお世話になっているDAMはもしかしたら彼の作ったものなのかもしれない。

推しが入隊するときは、ぜひとも楽な部隊に配属されてほしい。

そんなこんなで、韓国軍の実態を知りつつ、今のところ楽しく、気が向いた時に返信するような生活を送っている。

 

 

入院し始めの頃、「Maum」をよく使っていた。

しかし、この頃飽き始めている。

最初に比べると、アプリを開く回数はかなり激減した。

 

そんな今日この頃、事件は起こった。

 

2週間ぶりくらいに、私は久々「Maum」を開いた。

久々に韓国語を話すことになるので、緊張した。

誰かと、つながった。

 

「안녕하세요」

韓国の男の人だ。

「あにょはせよー」と久々に韓国語を発する。

こういったアプリでは、大体初めに、今何しているかを聞くのがお決まりだ。

電話している相手に今何しているのかを聞いても、本当は「電話をしている」という答えが正解なことはわかっている。

しかし、大体何しているか聞かれたら、「この電話をする前に何をしていたか?」という質問の答えを答えればいい。

とりあえず、相手に「지금 뭐하세요?」(今何されてますか?)と聞く。

電話の向こうから、「집에 가능 중」(家に帰ってる途中)と返ってくる。

だいたい、このターンをすることで、相手が日本語をしゃべりたいのか、韓国語で喋りたいのかが分かる。

この人とは韓国語で話すことを心に決める。

 

特に話を膨らませそうになかったので、スマホの画面を覗き、彼のプロフィールを見てみる。

すると、職業欄に「배우」(俳優)と書いているではありませんか。

私はここぞとばかりに、「혹시 진짜 배우님이세요?」(もしかして本当に俳優さんですか?)と質問する。

すると、「내 배우활동 하고있어요 가수나 모델도 하고있구요」(はい。俳優業してます。歌手やモデルとしても活動してます)と返ってくる。

ミーハーな私が踊り始める。

その後も、「まだ花は咲いてないですが、頑張ってます」的なことを言っていたので、「まだまだですよー!絶対売れますよ」と適当に返す。

彼が私と同い年(22)であることはプロフィール欄を見て知っていたので、それなりにいい感じのお世辞を言う。

私の脳内では、「なーんだ。売れてない俳優か…興奮して損したぜ」と思ってしまっていた。

 

そんな私の気持ちが伝わったのか、間ができたのか、相手から「今何してるのか」質問してきた。

私は正直に、電話かける前に見ていたドラマの名前を答えた。

そのドラマとは、Netflixで配信されている「わかっていても」という韓国ドラマだ。

私はこのドラマをとても気に入っており、何回も繰り返して見るほどだ。

何が好きかって、このドラマのすべてが好きだ。

脚本、キャスト然り、照明、音響、カメラワーク、すべてが芸術的なのだ。

 

私は、電話越しの彼に「わかっていてもというドラマの3週目を見てました」と伝えた。

すると、「それ、俺出てんだけど」と返ってきたのだった。

自分でまだ売れてないと言っていたので、さすがに期待していなかったが、「わかっていても」に出ているのなら、それはそこそこの俳優なのではないかと思ってしまった。

確かに、「わかっていても」に出てくる俳優は、若手の俳優が多かったりする。

自分が今電話している相手が、私がさっき出てたドラマのキャストだと思うと、一度枯れた興奮もすごいスピードで蘇ってくる。

 

さすがにテンションの上がった私は、ミーハーな質問をした。

「ハンソヒ様って実際に会ったらどんなんですか?」と聞いた。

ハンソヒ様とは、このドラマのヒロインを務められている女優さんだ。

私がこのドラマを好きなのは、ハンソヒ様演じるナビという役がとても美しく、上手であるからという要因が大きい。

いわば、私は、ハンソヒ様のファンなのだ。

電話の向こうからは「現実のものとは思えないほどに美しい。高貴な人だった」という感想が聴こえてくる。

実際にあった人でも現実感を感じない美貌ってどれほどのものなのだろうと思いながら、「カムサハムニダ」と、変な質問に付き合ってくれたお礼を言う。

 

そして、私は考えた。

「この人、何役なのだろう。」

声に特徴はない。

一瞬、何役か聞こうか迷った。

 

しかし、彼が何役なのか知った瞬間に、自分の中で完成しているドラマの世界観は、きっと崩壊する。

もしも、自分の大好きなキャラクターが自分と喋ってるとしよう。

とても嬉しいことだが、幻滅もする。

ドラマと現実は地続きでないからこそいいのだ。

それをこのアプリで現実のものと化してしまうには、ドラマを作ってくださった皆様に申し訳ない。

彼には悪いが、「どの役をやられてたんですか?」と深堀はしないことにした。

 

それでも、収まらぬ興奮に身を任せ、初めて自らカトクを聞いた。

「すいません。もしよければ、カトク交換してくれませんか?」

恐る恐る言ってみた。

「あ、わかりました。ID言いますね。」

意外とあっさりカトクを教えてくれた。

しかも、自らIDを言ってきた。

言われたIDを打ち込んで、スタンプを送る。

電話が切れた。

制限時間が来たようだ。

 

翌朝、スマホを開くと、彼からカトクが来ていた。

「おはよう」と書いてある。

「おはよう」とそのまま返す。

一晩明け、私の興奮は収まっていた。

 

朝、シャワーを浴びながら考えた。

「自らカトクのID教えちゃうような脇甘甘な俳優ってどうなのよ?」

「もし、自分が俳優をやってたとして、職業欄に俳優って書いちゃうのって、どうなのよ?」

「自分の推しがこの人と同じ行動取ってたら、ファンとしていたたまれない気持ちになるよな」

「きっと、プロ意識のない人なんだろうな」

「ってことは、きっと大したことのない俳優なんだろうな」

私のなかでの彼の印象が、昨晩とは考えられないほど、だだ下がっていた。

冷静になればなるほど、彼の行動と彼の職業のつじつまが合わなくなる。

そして、頭の中を占めるのは、「推しはこんな行動取るような人じゃないはずだよね?」だ。

サービス精神が旺盛なのか、ただただプロ意識が足りてないのかよくわからない彼の行動により、推しへの信頼まで揺らぎ始める。

※推し:私が好きな韓国のアイドル。

 

お昼。

ご飯を食べ終わると、カトクが鳴った。

「今日、仕事休みだから電話していい?」とメッセージが来ていた。

不信感でいっぱいだが、もう一度話してみて、考えようと思う。

「OK」と送ると、秒で電話がかかってきた。

暇な私が「こいつ暇かよ」と思ってしまう。

 

電話の向こうでは、昨夜とは、違い結構テンション高めな彼がいる。

「今日休みなんですね」と言うと、「そーなのーーー↑↑最高☆」と言っている。

休みなだけでここまでテンションが上がるのなら、それはすごいことだ。

時間が時間だったので、「ご飯食べましたか?」と聞いてみる。

「今出前なに頼もうか迷ってるの!」と超ウキウキした声が聞こえてくる。

たて続けに「なに頼んだらいいと思うー?」と聞かれる。

 

私は思った。

「君の地域の出前で何が頼めるのかを私は知らない。だから、一概に答えようがないんですけど…」

少しむかつきながら「なにがあるのー?」と聞いてみた。

「ピザ、寿司、ラーメン、ジャジャン麺、チキン、タンスユク(韓国版酢豚)、カルグクス(韓国の麵料理)」などなど、どれも高カロリーなものを列挙していく彼。

 

推しはよく、出前でキムチチゲを頼むと話していた。

出前生活でも健康に気を使っている我らが推しと、高カロリーな物しか挙げてこない彼を比較して、推しのすばらしさを再度確認。

 

適当に「ラーメンはどうですか?」と答えてみる。

「近所に、すごくおいしいラーメン屋さんがあるんだよね」と返ってきた。

「じゃあ、そこで決定ですね!」とノリを合わせる。

 

正直言って、君のお昼ご飯をなぜ私が決めなきゃいけないのかわからない。

適当にラーメンを頼んでもらって、さっさと次の話題に進みたかった。

しかし、彼は「でも俺、寿司が今食べたいんだよねー」と粘ってくる。

私は、「そーなのー?じゃあ、寿司でいいんじゃない?」と返す。

すると「でも寿司は高いからなぁ…」と渋っている。

高くて寿司は無理なんだったら、最初から寿司が食べたいなんて、私に言わないでほしい。

自分の心で思っててほしい一言だった。

 

私は、呆れながら「やっぱりラーメン一択でしょ」と謎にラーメンの肩を持つ。

すると今度は「チキンもいいなぁ」という声が聞こえてくるではないか。

どうでもいい。ほんとにどうでもいい。

「韓国のチキンおいしいですもんね」と頑張って返す。

普通の人なら、こういうコメントに「日本のチキンはおいしくないんですか?」とか返してくれる。

しかし、こいつにそんな気の利いたコメントはできない。

 

私のコメントがなかったかのように、「ジャジャン麵にしようかな」と言ってくる。

こいつは、私の話を聞いていない。

ものすごく独りよがりな会話をしてくる。

結局、この出前の話題で40分。

私は、彼のコロコロ変わる食べたいものに、適当に相槌を入れながら、最後までラーメンを勧めた。

40分の闘いの末、私が勝利を収めた。

塩ラーメンを頼ますことに成功した。

ラーメンと決まってからも、何ラーメンにするかでかなり長かったが、適当に塩を推しておいた。

 

こういった、「ほんとは何を食べたいか決まっていても、一応人の意見を聞くことで満足する」といった状況は、私たちにもたまにある。

特に、女子間ではそういった会話が起こりやすい。

一緒にショッピングに行くと、「これがかわいい、あれがかわいい、これもいいし、あれもいい。」と友達と盛り上がる。

95%、買うことが決定している本命の商品があっても、残りの5%の迷いを埋めるために、人に意見を求めることがある。

でも、その行為が許されるのは、友達の間でのみだ。

まだ親しくもない相手に、そんなことをされたら、さすがにダルい。

せめて、好きな人とそういう会話はしたい。

電話の向こうにいる彼は、私の中でそんな会話をしたい相手ではないことは確かだ。

いくら暇な私でも、相手にダル絡みをされ続けるとさすがにカリカリしてしまう。

 

しかし、そんなダルいターンも一旦終了した。

さすがに疲れすぎて、頭が回らない。

電話を切る言い訳を考えようにも、頭が回らない。

そうこうしているうちに、相手から「コンビニいくー」と言われた。

「いってらっしゃい」と返す。

 

心の中では、「コンビニに行くなら、コンビニ飯でよかったんじゃねーか?」と思う。

ご飯を頼み終わった今、コンビニに行く理由が私にはわからなかった。

「何しにコンビニ行くの?」と興味本位で聞いてみた。

たばこを買いに行くそうだ。

「喫煙者なんかい」と心の中で大きめにツッコミを入れる。

しかし、私がたばこに興味がないため、たばこの話題は続けられそうにない。

間ができた。

 

間が苦手な私は、「なんでたばこ始めたんですか?」と聞いてみた。

彼女と別れて辛かったから、たばこを始めたらしい。

「ひどい別れ方されたんですね」と適当に相槌を入れておく。

すると、「彼女とクラブに行ったとき、目の前で彼女が違う男とキスをした」と別れた詳細を教えてきた。

そんなことが気になって、「ひどい別れ方されたんですね」と言ったわけではない。

 

しかし、なかなかパンチのきいたエピソードだ。

心の中で、「こいつが彼氏なら、他の男とキスをした彼女の気持ちも若干わかるかもしれない」と思ってしまった。

電話越しでは「だから今や、たばこが彼女だ」と語っている。

なかなか気持ち悪い発言だ。

 

忘れかけていたが、彼は芸能の仕事をしているはずだ。

「クラブに彼女と行くのは、さすがに軽い行動過ぎないか?」とまた考えてしまう。

電話越しでは、自作のタバコが吸いたいソングを歌っている。

もう訳が分からない。

 

気になるのは、歌声と音程だ。

音痴ではない。

しかし、上手すぎるわけでもない。

私でも、あのくらいは歌える。

ほんとに芸能人なのか?と疑う。

 

話題を変えて、「なんで、俳優なのに電話アプリやってたんですか?」とほんとに聞きたかったことを聞いてみる。

失礼な質問ではあるが、ここまで変な奴だと、その質問も聞きやすい。

「日本語勉強のため」と返ってきた。

まさかとは思っていたが…

 

ちなみに、ここまでの会話は、オール韓国語だ。

「ここに日本語ネイティブの私がいるのに、日本語をこれまで一言も発っさない人が「日本語勉強したい」とか言うなよ」とムカついた。

そのムカつきが届いてしまったのか、彼から初めて日本語が出てきた。

「家着いた。出前来てた。」だった。

そこまでへたくそではない。

「よかったねー。たばことごはん、どっち先食べるの?」と日本語で聞いてみた。

 

返事が返ってこない。

しばらくして、「結婚したい」と日本語で返ってきた。

私は聞き間違えたのかと思い、「え?」と聞きなおす。

返事は返ってこない。

日本語を間違えたのかと思い、「韓国語で言って」と韓国語で伝える。

韓国語で「結婚したい」と返ってくる。

聞き間違いではなかった…

「え?誰と?」と日本語で聞きなおす。

返事は帰ってこない。

見越して、韓国語で「え?誰と?」と再度聞いてみる。

返ってきたのは、「タバコと」。

 

私にどう反応してほしいのだろうか?

まず、「タバコと結婚したい」そんなことは知ったこっちゃない。

法律でも改訂して、さっさと結婚してもらえれば、幸いだ。

そして、何より、私の日本語に一つも反応が返ってこない。

日本語がわからないのなら、「ゆっくり言って」や「もう一回言って」などと言えばいい。

これまで韓国語で話していたのだから、私に「韓国語で言って」と言えばいいだけの話しではないか。

わからなければわからないと伝えてくれればいいだけの話だ。

 

「わからない」の一言がいえないやつ。

絶対にプライドが高い。

 

そして、脈絡のない「結婚したい」。

この人は、言葉のキャッチボールというものを知らないのだろうか?

思い返してみれば、初めて喋った日も、いきなり「雨が怖い」と言ってきたことがあった。

その時は、電波がうまくつながらなくて、話の流れがあやふやになっただけだと思っていた。

だが、今考えると、それも立派な兆候だった。

どちらにせよ、この人は、ちょっと良く分からない言葉を突然発する人なのだと認識できた。

 

そして、無事出前は届き、私の耳には、ずるずると麺をすする音が届くようになる。

友達と電話しているとき、物を食べている音、水を飲む音、その他生活音は、なるべく相手の耳に入らないように配慮するものだ。(私の中では)

なるべく、イヤホンを付けたままものを食べないようにしたり、音をあまり出さないように気を使って食べるのが、最低限のマナーだと思っていた。

しかし、そんな配慮の欠片も見当たらない。

もはや、モッパンを見ているかのような、ASMR度合いだ。

ズルズル麺をすする音、クチャクチャ噛む音…

「おいしそうだね」の一言しか出てこない。

※モッパン:ユーチューブとかにあがってる、食べ物を食べる動画のこと。「食べる放送」の意味。

※ASMR:細部の音まで聞こえるような様。

 

こちらは、病院食がおいしくなくて、毎日腹ペコなのに、ずいぶんとおいしそうな音が聴こえてくるのも腹が立つ。

 

彼が食べ終わって発した一言。

「俺、9月にモデルの撮影で日本いかなきゃなんだよね…ダイエットしなきゃ」

呆れて言葉に困る。

我々一般人がおいしいものを食べて、「痩せなきゃ」「ダイエットしてるのにー」などとほざくのは、何も悪いことではない。

しかし、彼はモデルとしてお金をもらってる人だ。

「少しは、プロ意識もとうぜ?」と思ってしまう。

 

私は、そんな彼の最後の一言にK.Oを食らった。

もし、彼がほんとに俳優、モデル、歌手だったとしても最悪だ。

ただのプライドが高い一般人だとしても、めんどくさすぎる。

私は、真昼間に「ごめん眠くなってきちゃった…寝るね」の一言を放ち、電話を切った。

電話を切ると、カトクには「おやすみ」と来ていた。

返す気はない。

 

私は、散歩に出て、流れる川を見ながら、自分に問いかけた。

「ほんとは、最初に電話した日からプライド高そうな奴だと分かっていたよね?」

「なのに、なんで俳優の二文字で見なかったふりをしたんでしょう?」

 

これまで、電話アプリでいろんな人と話してきた。

奴は、確実に私が話した人の中で、一番秘めたる凶器を抱えた奴だった。

 

翌々日、「今から電話していい?」と追いメッセージが来ていた。

返信はしないまま、既読だけつけてブロックした。

 

おかげで、ブログが更新できた。

俳優なのかもしれない君、ありがとう。

 

(ここに出てきた彼は、彼がそうであっただけにすぎません。主語を大きくするのはやめましょう。)